ドタバタな出産
病院で診察を受けた夜、なんとなくまだズキズキと痛む下腹部を気にしながら眠りについた。

でも、1、2時間おきに目が覚める。赤ちゃんがうにょうにょと活発に動いて目が覚めてしまうのだ。でも、眠いから寝る・・。

明け方の4時ごろ、下腹部に鈍痛を感じる。

ちょっと、痛い・・。

薄目を開けて、しばらく様子を見る。また、鈍痛がきた。

もしかして陣痛かも・・・。

助産婦さんに陣痛が始まったらその時間をメモしておいて下さいと言われていたので、いつも枕元にペンを置いていた。
しかし、メモ帳が見当たらない。
もうどこでもいいやと思い、近くに置いてあったダンボール箱に時間を書く。

「4時43分」。

陣痛は7分おきにやってくる。
でも、軽い鈍痛なのでもしかしたら前駆陣痛かもと思い様子を見ていた。

ダンナ様は横でスースーと寝息をたてている。まだ起こせない。

5時を過ぎると5分おきに鈍痛がやってくる。これはやっぱり陣痛かも・・・。
さっきより明らかに痛みが強くなっていた。

ど、ど、どうしよう・・、まず、ダンナ様を起こして、入院準備の確認をして・・、助産院に電話しなきゃ、タクシーも呼ばなくては・・。

頭が軽いパニックになっていた。ダンナ様を揺さぶって、「起きて!陣痛が来たみたい」と言った。ダンナ様はちょっと寝ぼけた様子で「うそ・・どうしよう」と言っていた。

助産婦さんが前に、「陣痛が10分おきになってから電話をください。それから2時間くらいしてから来てください」と言っていた。

しかし、今の私は5分おきの陣痛が来ている。焦る。

慌てて助産院に電話をすると「じゃあ、今からすぐに来てください」とのこと。

そういえば、陣痛が軽いうちに食事をとらないと出産の体力が持たないと雑誌に書いてあった。
こんなに焦って必死な時なのに、そんなことだけは覚えていた。

ダンナ様にコンビニでサンドイッチとおにぎりを買ってきてもらう。

ひ、一口だけでも食べなくては・・・うぅ・・とても無理だ。アイタタタタ・・。ヒーフーヒーフー・・。
結局、口元でサンドイッチと格闘したが一口も食べれずテーブルに置いた。

タクシーが到着し、入院準備を持って乗り込む。
ドラマの様な感じで、私は後部座席で陣痛に耐えていた。ドラマもあながちウソではないようだ。

そしてまたドラマのように渋滞にはまってしまった。
は、早く〜!!早く助産院へ行って横になりたい〜ヒーフーヒーフー。

タクシーの運転手は焦って「大丈夫ですか?」と何度も聞いてきた。
この時ばかりは本気の本気でドラえもんの『どこでもドア』があったらどんなに便利かと思った。
早く人類よ発明しておくれっっ。

なんとか、助産院の前に到着し、タクシーを降りるが歩けない。
電信柱につかまって「ヒーフーヒーフー」と呼吸を整え、陣痛がおさまった時に「今だっ」と言って小走りに歩く。
助産院の玄関までたどり着く。中から助産婦さんたちがのん気な感じで「陣痛きて良かったですね〜」と言った。

私もそれどころではないのだが、「えへ」と言ってちょっと笑った。

陣痛の合間をぬって階段を駆け上る。
やっと出産の部屋に着いた〜!これで安心だ〜と思った瞬間から陣痛がますます強くなった。

痛いというより、お尻の方に力が入って痛い苦しいといった感じだった。

そんな最中、ふと昨日の夜、便秘薬を飲んだことを思い出す。
臨月になってから、便秘がひどくて便秘薬を飲まないと全然出なかったのだ。

出産が近いということもあり、最近は飲んでいなかったのだが、あまりにも出ない為、昨日の夜に薬を飲んでいた。朝、出ればいいのだなんて思っていたけど、その朝に陣痛がきてしまった。

いきみが来るのだけど、赤ちゃんなのか便意なのかわからない。間抜けすぎる。

私は陣痛の中、助産婦さんに昨日の夜に便秘薬を飲んだことを伝える。
助産婦さんは「気にしないで出してもいいですからね。そんな人はいっぱいいるから慣れてますよ」と言ってくれた。

でも、やっぱりこんな状況でも恥ずかしい。
苦しみながら「ト、トイレへ行きたいのですけど・・」と言ってお尻を押さえながらトイレの中へ。
便を出したいのだけど、いきんでしまい、何が出てるのかさっぱりわからなかった。

陣痛が来るたびに「グエッ、ウウウウ〜ああ〜、フーフー」と雄叫びを上げる。

ちょっと我慢すれば、声を出さずに済んだのだが声を出した方が痛みが和らぐ感じがした。
トイレから出て、子宮口の開きを確認してもらう。

「子宮口が全開してますから、いきんでもいいですよ」と助産婦さんが言った。

え?!もう、いきんでいいの? まだまだだと思っていたよ。じゃあ、力一杯いきませてもらいます!
陣痛の波が来て、力を振り絞っていきむ。くぅぅぅ〜、まだまだ出てきそうにない。またまた波が来る。ぐぬぬぬ〜、ダメだ。

何回も繰り返し繰り返し陣痛の波ごとにいきむが、赤ちゃんは全く出てきそうにない。

そういえば、病院での診察の時に先生が「ちょっと頭が大きいかもね・・、頭が大きいとなかなか出てこないんだよ」と言っていたのを思い出した。

本当に出てこない。5時間くらいいきんだ時、もう体力の限界だと思い畳の上に倒れた。

つ、疲れた〜、眠い〜、もう無理だよ〜。
陣痛の合間に、自分でも驚いたが眠ってしまった。ほんの1分程だったが、軽く夢まで見ていた。

あとから聞いたらダンナ様は、あまりの痛さに気絶をしたと思っていたらしい。
しかし、次の陣痛で起こされる。

来た来た来た来たぁ〜〜、ぐぬぬぬぬ〜!

3人の助産婦さんがついていてくれたのだけど、その中の一人の助産婦さんが「こんなに時間がかかってるから、もう病院へ連れて行った方がいいかも・・」とポツリと言った。

病院?もうここから移動するのは嫌だ〜、けど出てこない。どうしよう。
その後の何度目かのいきみの時に「頭が出てきましたよ。もうすぐですよ!」と助産婦さんが言った。
それを聞いて、俄然やる気が出てきて陣痛の波が来た時、内臓も出ちゃうんじゃないかと思う程、力を込めた。

ボトっと何か落ちた気がした。
ほぎゃぁ、ほぎゃぁと泣き声が部屋中に響く。

「産まれましたよー、男の子ですよ」と助産婦さんが言った。
やっと、産まれた〜。やっと楽になる〜。体中の力が抜けた。仰向けに倒れる。

いつの間にか部屋は薄暗くなっていて(赤ちゃんが眩しくないようにという配慮らしい)、私の胸元にまだへその緒がついた赤ちゃんが乗せられる。
赤ちゃんは泣きもせず、目を見開いてじっと私を見ていた。

よく頑張ったね〜、大変だったね〜。
私は赤ちゃんの手を取り、しばらく赤ちゃんの顔を見つめていた。
赤ちゃんと二人の夜
出産の後、私はしばらく動けずにボー然としていた。本当に疲れた。

その間、赤ちゃんはダンナ様にへその緒を切ってもらい、産湯につかって産着を着せてもらいホカホカになって戻ってきた。

仰向けになっている私の横で眠っている。赤ちゃんも疲れたのだね。ご苦労様。

しばらくして、入院の部屋へ荷物を持って移動して下さいと言われ立ち上がろうとした時、驚いた。全く立てない。

ダンナ様につかまり、なんとかフラフラと立ち上がるが、今度は歩けない。
間抜けな格好だけど、お尻を突き出してアヒルのようになって、やっと1歩2歩と歩けた。

まぁ、出産したばっかりだから仕方がないよね

部屋に入り、敷かれた布団の上に座る。赤ちゃんも布団の上で眠っている。

ダンナ様が帰った後、ふと今日の出産劇を振り返る。

あれだけ恐怖に思っていた出産の痛みも、ドタバタで何がなんだかわからなかった。
確かに痛かったけど、思っていた痛みとは全然違うものだった。

痛いと体が悲鳴を上げているのに、頭の中で『あ〜、今日は木曜日だから観たかった番組があったなぁ』と考えたりもした(これがまた本当の話なんだよぉ)。

あと、やっぱり助産院にして良かったなぁと思ったのは、助産婦さんたちの懸命な姿だった。

私が陣痛の最中、「痛い〜!痛い〜!!」と言えば「そうだね。痛いね。頑張ってね」と励ましながら腰をさすってくれたり、足を暖めてくれたり、一生懸命に私の痛みが和らぐようにしてくれる。

前に友人が病院で陣痛を我慢している時、看護婦に「痛い」と訴えたら「母親になるんだから我慢しなさいよ」と言い放たれたという。
陣痛の時に励ましてくれたり、聞いてくれると本当に痛みが和らぐのだ。

また、私が陣痛の痛みで部屋のあちこちに移動すると、その度についてきて、いつ産んでもいいように準備をしてくれる。

本当に大感謝だ。

またもし、妊娠をしたら今度こそ迷わず助産院へ行くであろう。
本能のままに動いて良かった〜、あのまま嫌な病院で出産しなくて良かった〜と心から思った。

素晴らしき助産院と助産婦さんたち!!

ふと、眠っている赤ちゃんへ目をやる。本当に小さい。持ち上げたら壊れそうだ。
時々、目を開けて私を見つめる。

こんなに小さくて可愛い子がこのお腹に10ヵ月以上もいたのか〜。私が産んだんだね〜。もう感無量だ。
その夜は興奮して全然眠れなかった。

チョコを隠した入院生活
ようやくピョコピョコしながら歩けるようになり、トイレへ行ったり、歯を磨きに洗面所へいけるようになった。

昨日の出産から興奮が冷め、ふと我に返るとチョコレートが食べたい。

助産婦さんに「甘いもや乳製品は乳腺がつまりやすくなるからしばらくは我慢してね」と言われていたが、食べたくてしょうがない。

でも、外へは出れないし・・・すごく食べたいけど我慢しよう。と思った時、ダンナ様から電話が来た。
これから、助産院に来るとのこと。
私は小声で「チョコ買ってきて。お願い」と頼む。ダンナ様は「いいよ」と軽くOKした。

やった〜、チョコが食べられる。しめしめ、ムフフフフ。

いけないとわかっていても、どうしても食べたい。
ずっと、体重を気にしてて臨月に入ってから我慢してたし、出産を終えた自分へのご褒美だ。

ダンナ様が到着し、コンビニの袋を差し出してきた。
袋の中にはチョコ菓子が二つ入っていた。わーい!

勢いよく食べる。おいひい〜、パクパク、おいひい〜!

その時、助産婦さんが部屋へ入ってきた。私はすごい速さでチョコを枕の下に隠す。

こんなに素早い動きをするのも久しぶりだった。
口をモゴモゴさせながら、残ったチョコを飲み込み、何もなかったかのように助産婦さんと体調や赤ちゃんの様子について話す。

ふ〜、セーフ。チョコを取り上げられなくて良かった。

まるで、子供がつまみ食いをして、母親にお菓子を取り上げられるかのようだ。

思えば、幼い頃、つまみ食いをしてもバレた覚えがない。
大人になって、しかも母親になったのにこんなことをしてる私ってどうなのかと思ったが、チョコ欲には勝てなかった。

2日目の昼、昼食を済ませて部屋を出るとお産の部屋が騒がしかった。
誰か出産をしているのかなと思いちょっと覗いたら、妊婦さんと助産婦さんの姿が見えた。

入院しているのは私だけだったので、産婦仲間が出来ると思っていたら夕方には帰ったようだった。

次の日の昼過ぎ、隣の部屋でバタバタと助産婦さんが布団を敷いている音がした。
誰か出産して入院の準備をしているのだと思った。

しばらくすると、私の部屋に助産婦さんが入ってきて、「今日、出産した方が隣の部屋に入院しますから」と言った。
私の部屋と隣の部屋は襖で仕切られていて、襖を開けると大部屋のようになる。
助産婦さんが「夕食は隣の方と一緒に食べてくださいね」と言った。

はて?どこで食べるのだろう。夕食の時にどちらかの部屋へ行けばいいのかな、と思っていた。

夕食の時間になり、助産婦さんは小さなテーブルを襖につけておいた。
夕食をテーブルの上に置き、「どうぞ座ってください」と言われたので私は襖の方へ向かって座る。
助産婦さんが襖を開けた。

ブッ!ちょっと笑える。
隣の人も同じように襖に向かって座っていたので、ご対面〜みたいな感じだった。

私も隣の人もちょっと微笑んで、「初めまして」と言った。

その人は、今朝、出産を終えたばかりの産婦さんだった。私と同じ初産だ。年齢は35歳前後だろう。
その産婦さんは、昨日の朝、陣痛がきて助産院へ来たのだが、陣痛が弱かった為、家に帰って陣痛が強くなるのを待っていたという。
「もしかして、前駆陣痛かもしれませんよ」と助産婦さんに言われ、実は本当の陣痛だったのに普段通りの生活をしていたらしい。
痛みに耐えながらお風呂に入ったり、パソコンでインターネットをしたりしていたという。
やっぱり陣痛だと思った時は、お産も進んでいて、助産院に到着して3時間ほどで産まれたそうだ。

なんとのん気な・・。

夕食が終わると、「じゃ、どうも」みたいな感じでペコペコお辞儀をしてお互い襖をしめる。
そして私は隠していたチョコをこっそりつまんでいた。

嬉しさと不安な退院 3人になった日
退院の日が来た。

普通、病院だと入院は7日だが、助産院は5日だ。
私は嬉しくてしょうがなかった。
早く帰ってダンナ様と赤ちゃんの3人になりたかった。

ダンナ様が助産院にお見舞いに来て、帰る時はそのまま一緒に帰りたかった。
だから、今日はとても嬉しい。

昼過ぎにダンナ様が迎えに来て、助産婦さんに挨拶を済まし、荷物をまとめて助産院を出る。
振り返って助産院の建物を見る。

『本当にお世話になりました。大感謝です』と心から感謝をした。
助産婦さんたちは全員、玄関でニコニコと手を振って見送ってくれた。

まだフニャフニャな赤ちゃんを抱えて家に着く。

部屋の中には赤ちゃん用の布団が敷かれていた。
ダンナ様が昨日の晩にいろいろと準備をしておいてくれたのだ。キッチンには哺乳瓶も並べられている。うぅ〜、ありがとう!

ふう、やっと落ち着ける。
ダンナ様は赤ちゃんが泣くと急いで抱っこをしてあやす。

ほんの5日前は2人で住んでいた部屋なのに、赤ちゃんがいるとこんなにも部屋が違って見える。
哺乳瓶、粉ミルク、オムツ、産着、玩具が目につく。

本当にこれから3人なんだ、私は母親として赤ちゃんを守って育てていかなければならないんだ。

しかし、ちょっぴり不安になった。思っていたより、体がガタガタのボロボロなのだ。
骨盤はまだ不安定でグラつくし、何時間もいきんだ為か、腰が痛くて思うように歩けない。

これから、日中、一人で家事や育児をしなければいけないのだが、本当に出来るのだろうか?

本当は実家へ帰ってしばらくお世話になるつもりだったのだが、出産直前になって母親から「お兄ちゃんが帰ってきたから、部屋がないのよ。だから悪いわねぇ」と電話があったのだ。

うちの兄は仕事で海外へ行っていたのだが、仕事を辞めて突然、実家へ帰ってきたのだ。

ちょ、ちょっとぉ〜、兄より出産後の私の方が心配のはずでしょう? 産後はなかなか動けないのも4人も産んだお母さんならわかるでしょう?と思ったが、昔からそういう母親なので(冷たいというよりのん気なのだ。大変だろうけど大丈夫でしょう、頑張れ〜と思っている)、あきらめた。

むかつくから頑張ってやろうじゃないさっ。(オイオイ・・・)

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